司馬遼太郎「菜の花の沖」読了。
彼の晩年の名作で、2000年にはNHKで連続ドラマ化されている。
正直主人公・高田屋嘉兵衛については全く知識がなく、幕末以前にロシアが北海道(当時の蝦夷)に来航していたことすら知らなかった。
また、それまでの著作には幕末~明治か戦国時代のものがほとんどで(この作品の前に読んだ「ひとびとの跫音」は例外として)、江戸時代中期(いわば太平の世の中)の内容なので、
「...6巻も読めるのか?」と心配していた。
が、取り越し苦労でした。それくらい面白かった。
司馬遼太郎の著作は時代を俯瞰的に捉え、その中で生きた人たちの姿を描くことが多いのだが、この作品は珍しく(?)高田屋嘉兵衛自身を中心に描いたものだった。
主人公が百姓(後に商人)という、国家や領国といったものとは無縁の市井の人だったからだろうか。
その分5巻のロシアの話が延々と続くのには苦労した。確かにその後の6巻への伏線としては非常に重要なくだりなのだが、それまでの嘉兵衛の話から一気に離れ、再度嘉兵衛が物語の中心に据えられるのは5巻の最後...という感じだった。
実際それまで割とスピーディーに(週1冊以上)読み進めていた分がビタっと止まり、2週間近くかかる始末で...。
その分6巻は一気に読み切った感じ。嘉兵衛とリコルドの国を超えた友情に感動した。
嘉兵衛の言葉で残るのはピョートル・リコルドに伝えた「上国とはなにか」に関するくだり(6巻p.159)
他を譏(そしら)ず、自(みずから)誉(ほめ)ず、世界同様に治(おさま)り候国は上国と心得候。
これについて司馬遼太郎は以下のように訳している。
上等の国とは、他国の悪口をいわず、また自国の自慢をせず、世界の国々とおだやかに仲間を組んで自国の分の中におさまっている国をいう
これをさらに進めて、
愛国心を売りものにしたり、宣伝や扇動材料につかったりする国はろくな国ではない。
第二次世界大戦で学徒出陣をし、その後生涯を通じて戦争に対して批判的だった司馬遼太郎らしい言葉に思える。
高田屋嘉兵衛の生き様はもしかしたら男女の間で感じるところが違うかもしれない。
男性は間違いなくグッとくるはず。オススメ。
...函館行く前に読んでおきたかったなぁ...orz